またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌   Henri Cartier-Bresson


はっきりしない梅雨の晴れ間に、皇居脇の国立近代美術館で開催しているアンリ・カルティエ=ブレッソン(以下長いのでHCB)の回顧展に行って来ました。
HCBの写真といえば「決定的瞬間」という言葉が思い浮かびますが、これはアメリカでの最初の写真集のタイトル「The Decisive Moment」から来ています。オリジナルのフランス語は「Image a la sauvette」で、翻訳すれば「逃げ去るイメージ」といった意味でした。
大きなカメラを固定してスタジオで撮る写真と違って、HCBは売り出されたばかりの小型のライカで、自由自在にスナップショットを撮りました。確かレンズは望遠ではなく、35か50ミリを愛用していたと聞いています。ということは、被写体にかなり近付いて撮っていたはずです。かなり大きく引き延ばしても見応えがあり、すべての写真にある四辺の細い黒枠でトリミングしていない事が分かります。もうシャッターを押した瞬間に、ピントも構図も計算されているのです。
上の写真の数々を見ていただければ分かりますが、感じるのはHCBの神業ともいえる構図の妙です。雨上がりのサン・ラザール駅裏で男が水たまりを飛び越えようとした瞬間に、彼はシャッターを押しました。彼の体は見事に空中にあり、シンメトリーの様に男の影が水面に写っています。まさに「決定的瞬間」であり、逃げ去っていく時を止めてイメージをフィルムに残したのです。
アメリカはマンハッタンの摩天楼の谷間に、猫とふたりきりで対話する青年がいます。写真からはビルの直線的な構図とともに、大都会の孤独とささやかな友情を感じられます。私の大好きな一枚です。彼の写真からは、技術だけではなく豊かなイメージまでも喚起されるのです。
HCBはライカ片手に世界中を撮影してまわっていたらしく、初見の写真もかなりありました。彼は偶然政変が起こる時に現場に居るという特技があるらしく、中国共産党が国民党政府を南京から追い出した時も、インドのガンジーの暗殺にも居合わせて写真を撮っています。
有名人のポートレートも必見です。彼の写真集の装丁も手掛けたアンリ・マティスは、例の白い鳩とともに写っています。ピカソのアトリエにモジリアーニの絵が無造作に置いてあるのを発見。ジャン・ルノアールの映画の助監督をしたのは知っていましたが、『ピクニック』と『ゲームの規則』に役者として出ていたのは知りませんでした。
今年の春に公開されたHCBの映画がDVDで出ています。作品とともに貴重なインタビュー満載です。