またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

『マイティ・ハート』を見たら、『グアンタナモ僕達が見た真実』も見よ!

今、パキスタンが大変なことになっている。ブット元首相が暗殺されて、自爆テロで大勢が犠牲になった。パキスタン民主化どころではなく、ムシャラフではなく混沌が国を席巻している。イランで誘拐された中村さんはパキスタンにいるという報道だが、いまだに解放されずに年を越そうとしている。

A Mighty Heart/2007/アメリカ
先日アンジェリーナ・ジョリー主演、マイケル・ウィンターボトム監督の『マイティ・ハート』を見て来た。2002年にパキスタンで誘拐、殺害されたジャーナリスト、ダニエル・パールの妻マリアンヌの手記をもとにした、ドキュメンタリー・タッチのドラマだ。
ダニエル・パールの誘拐事件は、日本ではあまり報道されなかったように思う。私自身は英語雑誌のエッセイで彼に興味をもったものの、そのうち忘れてしまった。イラクで日本人3人が誘拐され、「自己責任論」なるバッシングが日本に溢れたのは、その2年後である。
ダニエル・パールという人は、ウォールストリート誌の敏腕記者だったらしいが、映画ではあまり語られない。妻のマリアンヌの視点から描かれ、当然誘拐の顛末は謎のままだ。
夫妻はパキスタンのカラチに滞在し、まもなく帰国する予定だった。最後の取材に出かけた夫が夕飯に帰らない。電話にも出ない。誘拐されたらしい。捜索チームが結成され、ダニエルの行方を追跡する。妻のマリアンヌは、自身もジャーナリストであり、身重の身体でありながら、諦める事無く捜し続ける。ドキュメンタリータッチで飽きる事は無いが、結末が分かっているだけに、生死の分からないスリルは感じられない。
ブラッド・ピットがプロデュースしている関係で、初めからアンジェリーナ・ジョリーが主演するのは決まっていたらしい。彼女は好演してはいるが、マリアンヌではなく、どうしてもアンジェリーナ・ジョリーに見えてしまう。実話で、ドキュメンタリーに限りなく近い撮り方をしているだけに、有名な女優を使うのはマイナスだったと思う。
ダニエル・パールを殺したのはアルカイダの一派とされているが、ダニエルがユダヤ系だったのが運が悪かった。また犯人は、キューバグアンタナモ基地に拘束されているアルカイダ兵士の釈放を交換条件にし、ダニエルに基地の囚人の例のオレンジ色のつなぎを着せた写真を送りつけてる。
ここで、同じウィンターボトム監督の『グアンタナモ僕達が見た真実』(The Road to Guantanamo/2006)を見損なっていたことを思い出した。帰ってすぐ借りて見てみると、想像以上の衝撃に驚いた。アメリカが確たる証拠もなく違法にテロ容疑者を拘束し、そして劣悪な環境で非道な取り調べを行っていることが、再現ドラマで描かれている。無知なパキスタン系イギリス人の若者たちが巻込まれた運命のなんと過酷なことか。
ウィンターボトム監督がパキスタンで映画を撮るのはこれで3回目だそうだ。パキスタンの難民キャンプから脱出する少年たちの話『イン・ジス・ワールド』と『グアンタナモ〜』、『マイティ・ハート』と。社会性の強い作品は、英国の先輩監督ケン・ローチの影響だと思う。クリント・イーストウッド監督が、硫黄島の戦争を日本とアメリカ両方の視点から2本の映画を完成させたように、ウィンターボトム監督の2作も同じ混乱の中で生まれた悲劇として両方見てほしい。