またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

「美術にぶるっ!」とふるえた。

今日は東京に大雪が降った。成人の日に降るのは15年振りだそうだ。
雪国育ちなのでいまさら雪に驚くことはないが、毎年の初雪には心躍ったものだ。子どもだったからだろうか?いや、いい大人になった今でも雪景色には惹かれるものがある。
少し外へ出て、夜の雪道の写真を撮ってみた。

実はこんなに雪が降らなければ、先週土曜日に行った展覧会の最終日にもう一度行きたいと思っていた。
その展覧会とは東京国立近代美術館で開かれていた「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」である。

開館60周年で改装が済んだ近代美術館が、重要文化財13点を含む所蔵品を一挙公開といううれしい企画だ。
実はまあ1時間半もあれば廻れると高を括っていたら、2部構成になっている後半を見る時間が無くなってしまった。もう一度見てみたい名作もたくさんあったし、最終日に駆け込むつもりだった。悔いが残るが、悪天候を押して行く元気も無かった。

ところで、展覧会のキャッチコピーは「美術に、ふるえたことがありますか?」で、それぞれのお気に入りを見つけよう、というコンセプトだ。
美術館の人気投票によると、洋画はパウル・クレー<花ひらく木をめぐる幻想>、日本画上村松園<母子>であった。
私は、岸田劉生<道路と土手と塀>が何と言っても忘れられない。テレビで見た時から気になっていたが、本物の迫力は凄まじく、写実を通り越して3Dではないかと思う程、こちらに迫って来る。
道の絵というと東山魁夷の名作を思い出すが、岸田の道の絵はまったく違った感動を与えてくれる。
何てことはない坂道を描いているのに、観る者を釘付けにさせる画力に舌を巻いた。
麗子像も2点あった。子どもの頃この麗子像が怖かったものだが、旅先から麗子嬢に送ったスケッチ付きハガキもあって、いかに岸田劉生が娘を可愛がっていたかが良くわかる。

岸田劉生のライバルだった木村荘八の連載小説の挿絵も、とても気に入った。永井荷風の『墨東奇譚』のために描いた一連の挿絵だ。東京下町育ちの荘八は、馴染みの風景を愛情込めて描いたのだろう。細かな描写で色町の雰囲気を実に上手く写し取っている。当時小説よりも挿絵の方が好評で、荷風が気を悪くしたとの逸話があるそうだ。私は、荷風の小説も読んだし、新藤兼人監督の映画も観ている。玉ノ井辺りを散策したこともある。個人的に興味深い作品だ。

何せ300点近くの作品があるのだ。百花撩乱、美味しいとこ取りの楽しい展覧会だった。
かえすがえすも、もっと早いうちに観に行けば良かったと悔いの残る展覧会ではあった。