またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

負け犬で何が悪い?『リトル☆ミス☆サンシャイン』

アカデミー関連の作品で私はこれが一押し。今さらだけどね。
家族全員が何らかの問題を抱えたまま、いまや唯一の希望である末娘の美少女コンテストへ急ぐ一家。旅が進むにつれて、乗っている黄色いミニバスはぼっこわれ、みんなの状況は悲喜劇へと突き進んでいく。クライマックスの「リトル・ミス・シャンシャイン」コンテストで、笑いは最高潮に達し、気が付いたら泣き笑い状態に!見終わって、不思議な幸福感が漂う。

負け犬家族―winner or loser

フーヴァーー家は変わり者の集まりである。
一家の主婦シェリル(トニ・コレット:美人でない分おいしい配役が多い)は、ばらばらになりそうな家族を必死にまとめようとしてストレスが溜まり、煙草がなかなか止められない。
そんなシェリルは、自殺未遂騒ぎを起した兄を引き取る事に。ゲイでプルースト学者のフランク(スティーブ・カレル:見た事あると思ったら、『40歳の童貞男』の彼)は、ライバルの研究者に「天才奨学金」ばかりか、恋人の男子学生まで取られて、自殺騒ぎでアパートを追い出され、大学の職まで棒にふってしまう。
勝者に成るための啓発理論「9ステップス理論」を書籍化しようと奔走する家長リチャードグレッグ・キニア:俗物の悲哀をうまく演じている)は、彼の理想とは裏腹に、坂を転げ落ちるように敗者の道へ。
長男ドウェーンポール・ダノ:本当は20代なのにティーンネージャーの屈折した心理を見事に表現)は、テスト・パイロットに成るため無言の業をし、家族とは筆談。腕立て伏せとニーチェを読みふける毎日。ニヒルを気取っているくせに人の気持ちが分かる優しい一面も。伯父のフランクとは気が合う。
ビューティ・クィーンに憧れている妹オリーブアビゲイル・ブレスリン:子役とは思えない自然な演技で魅了)は、代役でコンテストに出場するも、周りの少女達からはあきらかに浮いている。おじいちゃんと仲良し。
麻薬吸引でホームを追い出されたグランパアラン・アーキン:彼がいなかったら、面白さは半減しただろう)は、まだ童貞のドウェーンにたくさんの女と寝ろと諭し、始終エロトーク爆発の喰えないじいさんである。死体になってからも大活躍!

綿密な脚本

この作品の成功は、マイケル・アーントの脚本にあるといってもいい。マシュー・プロデリックのアシスタントといった以外たいした経歴のない彼は、アーノルド・シュワルツネッガーの「この世で嫌いな者があるとしたら。それは“負け犬”だ」という言葉に反発し、この作品のアイデアを思い付いたそうだ。99年から執筆にとりかかり、100回も推敲を重ね、それから紆余曲折の末5年かかって映画化された。
ばらばらだった家族がバスで旅していくうちに、それぞれの身に悲劇が降り掛かり、敗色が濃くなるにつれ、笑いは加速し、最後のクライマックス、オリーブのダンスで家族の心はひとつになる。感心するほどうまく計算された脚本に仕上がっている。

お気に入りのダイアローグ

おじいちゃんがコンテストを控えた孫娘オリーブを励まして。
 "A real loser is someone who's so afraid of tnat winning he doesn't even try." (本当の負け犬っていうのは、負けるのが恐くて挑戦しない奴らのことだ。)

弾丸のようにエロトークを続けるおじいちゃんは、戦争で闘ったことが誇り。
 "I can say what I want - I still got Nazi bullets in my ass.
(俺は言いたいことを言う。俺の尻にはまだナチの弾がぶちこまれてるんだ。)

自殺未遂後、甥の部屋で眠るはめになったフランクに、無言の業を続けるドウェーンが筆記で。
 [on notepad] "Wellcome to hell" (メモ帳に;地獄へようこそ)

アメリカ随一のプルースト研究者を自負するフランクが、悩める10代のドウェーンにプルーストを語る。
 "You know Marcel Proust? French writer. Total loser.Never had a real job.Unrequited love affares. Gay.Spent 20 years writing a book almost no one reads. But he's also probably the greatest writer since Shakespeare.
マルセル・プルーストを知ってるかい?フランスの作家で、まったくの敗者だった。まともな職にはつけず、恋愛では愛されず、ゲイだった。20年間、誰も読まないだろう本を書き続けた。しかしそれでも、プルーストシェークスピア以来の偉大な作家となった。)
悩み苦しんだ月日がプルーストを大作家にさせたのだから、青春時代をおおいに苦しめ!と語る。