またたびCINEMA〜みたび〜

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雰囲気はいいんだけど..。『ブラック・ダリア』

ブラック・ダリア (文春文庫)

ブラック・ダリア (文春文庫)

数年前に観た、ジェイムス・エルロイ原作の『L.A.コンフィデンシャル』の映画が面白かったので、代表作のこちらから読み始めた。長い小説で、読み出してから後悔した。あまりにも凄惨なストーリーで、耳まで裂けた笑った顔のピエロの絵がキーモチーフなのだが、そのイメージが頭から離れずこわごわ最後まで読み通した。手元に置いておくのも気味が悪いので、誰かにあげてしまった。今回映画化にあたり、喉元過ぎて熱さを忘れたのか、のこのこ映画館に足を運んだ次第。
この小説は、1947年に実際に起きた猟奇殺人事件を題材にしている。ロサンゼルス市内の空地に、腰のあたりで切断された若い女性の変死体が置かれていた。衣服をつけていない死体は、何故か血を洗い流され、口は耳まで裂かれていて、目撃者はマネキンのようだったと証言している。映画では警官が記者を死体から遠ざけようとしていたが、実際は記者の方が早く、写真はたくさん撮られてしまっていた。生前、黒髪で黒い服を好んで着ていたため、人々は当時流行っていた映画『ブルー・ダリア』から、彼女を「ブラック・ダリア」と呼んだ。この殺人事件はいろいろと資料を読んでいくと、小説よりも残酷で凄惨だったようだ。いけない、深入りしてしまった。ネットは便利だが、余計な事まで知らせてくれる。
この衝撃的な事件はもちろん全米の話題をさらい、その後エルロイ少年の心と頭に深く刻みつけられることとなった。10才の時に何者かに母親を殺された少年は、いつしかブラック・ダリアと美しかった母親を同一視するようになっていった。
さて映画だが、フィルム・ノワールの雰囲気はたっぷりあるのだが、物語としての満足感はいまひとつ。『LAコンフィデンシャル』が良かっただけにね。デ・パルマの作品は、演出は大袈裟で中身が伴わないような気がする。全部観ているわけではないけれど。『アンタッチャブル』の階段のシーンは『戦艦ポチョムキン』へのオマージュだろうけど、笑っちゃった。ポーランド人のリプチンスキーという人が撮った『ステップス』という作品は、ポチョムキンの階段シーンにアメリカ人の観光客が乱入する、という斬新なもの。昔NHKで放送したことがあったけど、観た人はいるかなあ?
この作品を魅力的にしたのは、スタッフが素晴らしいからかも。撮影は『ディア・ハンター』を撮ったヴィルモス・ジグモンド。カラー作品なのにモノクロのような気がするのは彼の腕?階段の殺害シーンは往年のドイツ表現主義を思わせる。『めまい』の引用だそうだけど分からなかった。張込み現場から死体発見現場への大掛かりのクレーン撮影は、私は面食らってしまったのでマル。屋根の上のからすが無気味で良い。
ヒラリー・スワンクらが出没するレズビアン相手のキャバレーで流れてきた、コール・ポーターの「ラブ・フォー・セール」に聞き惚れていたら、なんと歌っていたのはK.d.ラング。この曲のベストはラングに決定。ちなみに彼女自信もレズビアン。音楽はマーク・アイシャムで私のお気に入り。
美術はフェリーニやスコセッシ作品を手掛けるダンテ・フェレッティ。
俳優はブラック・ダリア役のミア・カーシュナーが良かった。ヒラリー・スワンクファム・ファタル役ではないし、ミアとも似て無い。スカーレット・ヨハンソン(発音違うんじゃないかな?)とジョシュ・ハートネットは悪くはないが、この役には若すぎた?アーロン・エッカートは昔と比べると男前になったのね。