またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

ギリアム版アリスは毒入り林檎 『ローズ・イン・タイドランド』

ずう〜と宵っ張りの朝寝坊だったのに、最近、夜になると睡魔が襲ってきたりして..。おかげでブログが更新出来てません。今も、真夜中のブラックコーヒーでなんとか起きてます。映画は観ているんですが,,,。フィジカル・ワークのせいかしら。

ローズ・イン・タイドランド [DVD]

ローズ・イン・タイドランド [DVD]

"ロース・イン・タイドランド" (Tideland/2005/英・カナダ)今回またたびCINEMAで取上げるのは、モンティ・パイソンの唯一のアメリカ人メンバーだったテリー・ギリアム監督のローズ・イン・タイドランドです。
彼は英国BBCの伝説的番組「空飛ぶモンティ・パイソン」の中で、主にアニメーションを担当。スケッチの登場回数は他のメンバーより少ないのですが、私の大好きなスケッチ「スペインの宗教裁判」で、マイケル・ペリンテリー・ジョーンズと共に、赤装束の異様な出立ちで突然現れる審問官役で出ています。確か一言も発しないのですが、怪異な風貌で笑いを取っています。彼のイラストはナンセンスかつブラック、シュールこの上ないもので、パイソンズのイメージ作りに貢献しています。

オックスフォード大学の数学教授チャールズ・ドジソン(笑ってしまう本名ですが、ルイス・キャロルは綴りを組替えたもの)が、学長の娘アリスを歓ばせるために創作した、ナンセンス文学の傑作『不思議の国のアリス』を、テリー・ギリアムが作り変えました。以前にも、彼は『鏡の国のアリス』の怪物が出てくる『ジャバーウォッキー』を映画化し、アリスへのアプローチをしています。脚本も彼のオリジナルだとばっかり思っていたのですが、原作がありました。ミッチ・カリンという人の小説で、邦題とは違い、ただの『Tideland(干潟)』。アリスをモチーフにしてはいますが、脚色ではなく、全然別の作品です。

オーバードースで死んでしまった母を残して、ロッカーの父と憧れの地ユトランドを目指す少女ローズでしたが...。


ローズの夢想と現実

白ウサギの穴に落ちたアリスは、大きくなったり、小さくなったり、涙の川に溺れそうになったりします。ハンプティ・ダンプティやチェシャ猫に遭遇し、マッド・ハット達とお茶を飲み、トランプの女王に悩まされたり、実に不思議な冒険をします。ですが、それは姉の横で居眠りして見た夢のお話でした。内容はナンセンスでシュールでも、『オズの魔法使い』と同じく夢オチでした。
ローズは過酷な現実を受け止めず、幻想の世界の中で遊び続けます。
両親はジャンキーで、パパにクスリを注射したり、ほぼベッドに寝たきりのママの足のマッサージはローズの仕事です。幼いながらも、荒んだ生活の中で両親の世話をする姿が痛痛しい。テキサスの祖母の家に着いてすぐに、母ばかりか父までもトリップ中に逝ってしまいます。父は眠り続けていると思い込み、廃屋の中でバービー人形の頭部を友達に、ピーナッツバターで飢えをしのぎます。
両親を麻薬で失って孤児となったローズですが、動かない死体に寄り添い、腐っても気付かす、首だけの人形達を家来にして一人遊びに興じます。明らかに病的です。現実逃避行動なのでしょうか?
偶然なのか、テリー・ギリアムもパイソン時代のアニメで、人の首を転がしたり、穴に落としたりしていました。

ローズの夢想の舞台
ユトランドに行くはずが、テキサスの草原に立つ祖母の廃屋に行き着いたローズ。おばあちゃんはとっくの昔に亡くなり、しゃべる栗鼠に誘われて入った屋根裏部屋には、おばあちゃんのドレスや小物がいっぱい。羽根のショールやメイク道具でお洒落
をしましょう。
家の周りに広がる草原も遊び場。鉄道の線路の脇にはひっくり返ったバスがそのままに。ローズはバスの中でホタルと戯れます。
パンフによると、この広い小麦色の草原にぽつんと立つ木造の農家のイメージは、画家アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」からいただいたそうです。そう言われれば、という感じです。
バスの中で遊んでいる時に、突如現れた黒装束の女、デル。魔女にしか見えません。蜂に刺された片目は濁り、いつも蜂除けの網を被っています。何でも剥製にしてしまいます。その昔パパ、ノアの恋人だったようです。その弟、ディケンズは頭に手術あとの縫目があり、何故か潜水服にゴーグルをしています。少年時代におばあちゃんの世話をしていた彼は、精神年齢もローズ並です。姉をひどく恐れています。彼等が唯一の隣人です。
おばあちゃんの廃屋と、デル達の謎の家と、その間に広がる原っぱと逆さまのバス。意外と狭いローズの遊び場で、夢想は無限に広がります。
私も少女時代は、色々想像に耽る子供でした。(いまでもどこかへ行っている時があります。)当時家の近くにあった新潟大学の分校が私の遊び場でした。お化け屋敷といわれた古い校舎と、中庭にあった古池、グランド脇のポプラ並木。夏は毎日の様に、虫網を持った兄の後を追いかけて遊びに行ったものです。あそこは少女時代のワンダーランドであり、夢想の場所でした。(実際に夢によく出てきました。)

不思議の国のキャスト
なんといっても、ジェライザ・ローズ役のジョデル・フェルランド。彼女の演技と魅力で説得力のある楽しい作品になりました。ラストシーンで、弟を捜すデルをしり目に、ちゃっかり新しい庇護者になるであろう女性に寄り添う様子に脱帽しました。
魔女デル役のジャネット・マクティアは個性的な風貌で役にハマっているし、とろい弟ディケンズ役のブレンダンフレッチャは将来が楽しみな俳優さんです。
パパ、ノア役のジェフ・ブリッジスは、『フィシャーキング』(1991)でギリアムと組んでいます。この時はギリアムの好きなホーリー・グレイル聖杯を捜していました。(彼の処女作は『モンティ・パイソンホーリー・グレイル』で、この聖杯は最近話題のダ・ヴィンチ・コードのキリストの聖杯では無く、アーサー王伝説の方です。)ブリッジスは、コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキー』に続き、汚いぐうたらオヤジを演じてます。若い頃はセクシーないい男だったんですよね。

この映画が気に入った人は、テリー・ギリアム最高傑作『未来世紀ブラジル』を観てね!背筋が凍ります。