またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

『ホテル・ルワンダ』はなぜ面白いのか?


 When the world closed its eyes, he opened his arms.
 (世界が惨劇に目をつぶっていた時、彼は暖かい手を差し伸べた。)

ホテルルワンダ
(Hotel Rwanda/2004/南ア・伊・英)
公開のめどさえ立っていなかった『ホテル・ルワンダ』が、有志によるインターネットの呼びかけにより日本でも見る事ができるようになりました。私もやっと見て来ました。
この映画はドキュメンタリーではありませんが、ルワンダの高級ホテルの支配人だったポール・ルセサバキナの実際の体験を下にドラマ化されています。
 
実は重い映画だと思っていたので、それなりの覚悟をして見に行きました。ですが、ストーリー展開の巧さなのか見終わってみると、ことのほか面白かったのです。



1994年、アフリカのルワンダで起こった大虐殺を、遠い日本でどのくらいの人が関心を寄せていたでしょうか?多数派のフツ族が突如少数派のツチ族を襲い、3ヶ月で50万とも100万ともいわれる人を殺した信じられない大惨事です。その間、国連は平和維持軍を2500人から270人に減らしました。
私は当時TIME誌の記事を興味深く読んだ事を憶えています。(フツ族ツチ族を憶えるのに、多数派は普通だからフツ族とこじつけていました。)特に西側の軍隊が全て撤退したことに驚きました。その後、コソボ紛争NATO軍が空爆までして介入したのとは対照的です。

ルワンダは他のアフリカ諸国と同様、西側の国々に翻弄されてきました。第一次世界大戦迄はドイツに、それ以降はベルギーに占領されていました。ベルギーはツチ族フツ族の分断を後押し、統治に利用し、お互いの憎しみを増長させました。1962年に独立するも、73年にはクーデターによりフツ族のハビャリマナ将軍が大統領に就任。90年、国外に亡命していたツチ族が中心となってルワンダ愛国戦線(RPF)を結成、内戦が勃発しました。94年RPFと和平の話し合いが始まる中、大統領の乗った飛行機が撃墜され、史上稀に見る惨劇へと発展して行きます。

映画は、インテラハムェと呼ばれるフツ族民兵達が怪しい行動を取り始め、遂にある晩次々とツチ族の住民をナタで襲いはじめます。
ポール自身はフツ族ですが、妻やその家族はツチ族です。民兵達の攻撃を機転と賄賂で切り抜け、ツチ族の知合いをホテルに匿います。ベルギー資本の高級ホテルのミル・コリンには国連軍のガードがいる為に民兵達も手が出せず、次々と命からがら逃げて来た住民達が集まって来ます。
衝撃的な惨劇の撮影に成功したカメラマンのダグリッシュに、ポールはこの映像で世界が目覚めてくれると期待を寄せます。ダグリッシュは「これを見て人垢蓮△泙△劼匹い噺世辰董▲妊?福爾鯊海韻襪世韻機廚氾?┐泙后?修靴独爐慮世辰討い觧?賄?罎垢襪里任后

平和維持軍のオリバー大佐から、間もなく国連の援軍が来ると聞いてたポール達の期待は見事に打ち砕かれます。軍隊は西側の滞在者達の国外避難のために派遣され、ホテルに滞在していた西欧人達を始め、ジャーナリストや白人の聖職者達までもが去って行きます。雨の中呆然と佇む残された住民達の姿が印象的です。

その時オリバー大佐がポールに言います。「君たちは黒人だ。ニガーですらない。アフリカ人だ。西側にとって無価値な存在だ。(国連軍が)これからここに留まることも、虐殺を止める事も無い。」

平和維持軍の為攻撃の制約を受けながらも、最低限の人員でポール達を手助けするオリバー大佐(映画ではニック・ノルティが好演)のモデルは、国連ルワンダ支援団のロメオ・ダレール少尉を始めとしたカナダ人将校だそうです。ダレール少尉はその後、ルワンダでの体験によりひどい戦時ストレス症候群に悩まされたそうです。彼を主題にしたドキュメンタリー『Shake Hands with the Devil:The Journy of Romeo Dallaire』もあり、ぜひ見てみたいものです。

難民収容所のように変貌していくホテルを、ポールはありとあらゆる手段を尽くして、民兵や政府軍の攻撃から守ります。彼の頭の回転の速さと行動力、懐の深さには目を見張るものがあります。
そのポールを演じているのが、ドン・チードルです。スタジオ側は初め、デンゼル・ワシントンを提示してきましたが、監督はヒーロータイプではないドン・チードルを選びました。監督の采配は当たり彼はこの映画に説得力と深みを与えました。(本物のポールはデンゼル・ワシントンタイプだそうです。)
物資を調達に夜の町に出たポールは、累々と連なる死体に足を取られます。ホテルに戻り、ひとり部屋で恐怖に震える演技は素晴らしいの一言です。実はこの場面は監督とチードルのまったくの創作だそうですが。

虐殺は1994年の7月にRPFがフツ族を追い出し集結しました。結局、ポール・ルセサバキナは3ヶ月間で1268人ものツチ族フツ族の避難民をミル・コリンホテルに匿ったそうです。ただのホテルマンがこれだけの人々を救う活躍をしたのです。

この映画は、100万人もが犠牲になったと言われるルワンダのジェノサイドを扱っているにも関わらず、観客はいつのまにか主人公のポールと一体化し、困難を切り抜けていく度ににハラハラドキドキし、最後なんとか国を脱出することでカタストルフィーを感じさせてくれます。悲惨な現実は忘れて、
安堵してしまうのです。映画としては成功といえるのでしょうが、それでよかったの?と自問自答してしまいました。実際はこの後、ツチ族によるフツ族への報復も報道されているのですから。

*資料は劇場用パンフ、IMDbを引用、参照しました。