またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

ドイツが描いたヒトラー <ヒトラー 最期の12日間>より


 イギリス南部の海岸に突如現れて、全世界を煙に巻いたピアノマンの正体が判明しました。ドイツバイエルン地方出身の二十歳(見えない)だそうですが、想像を逞しくしていた私は、拍子抜けして、何か裏切られたような気さえします。ビリー・ジョエルだってきっと云っています、ピアノマンと云えば俺の事だったのに!  
ピアノマンの謎は解けましたが、同じドイツ人のこの人の謎はどうでしょうか?
あのちょび髭の冴えない男のどこに当時のドイツ人は魅了されたのでしょう?
 

ヒトラー?最期の12日間?エクステンデッド・エディション<終極BOX> [DVD]

ヒトラー?最期の12日間?エクステンデッド・エディション<終極BOX> [DVD]

監督は『es』を撮ったオリヴァー・ヒルシュビーゲルで、ヒトラーを演じるのは『ベルリン 天使の詩』で天使役のブルーノ・ガンツ。スタッフ、俳優はほぼドイツ人だが、ベルリン陥落のシーンは
サンクトペテルブルグで撮ったため、皮肉な事に700人のロシア人エキストラがナチスの制服を着て協力したらしいです。イギリスやハリウッドではたくさんのナチス映画が撮られていますが、ドイツ人によるドイツ語の映画は初めてでないらしいですが、かなり注目されました。

 この映画は二冊の原作があり、ひとつは歴史家フェスト著「ダウンフォール:ヒトラーの地下要塞における第三帝国最期の12日間」でもうひとつはヒトラーの女性秘書ユンゲ著「最後の時間まで:ヒトラー最後の秘書」。この秘書は映画の最初と最後に登場して貴重な証言をしています。
 
 ドイツ敗戦間際、ヒトラーと側近たちが首相官邸の地下に隠れていたのはドキュメンタリーで知っていましたが、再現された地下要塞が案外広くて多くの人が寝泊まりできたのは意外でした。
 ブルーノ・ガンツヒトラーそっくりで、彼をよく研究しています。ヒトラーユーゲントの少年達と握手するシーンでは、威厳を保ってはいますが後ろに回った片手が小刻みに震えていました。これと全く同じ場面をドキュメンタリーで観ました。
  
 ロシア軍によって地上は焼け野原なのに、地下ではヒトラーは残った側近を集めて実現不可能な作戦を起てたり、裏切った側近達を罵ります。ユダヤ人撲滅を訴え、さいごにはドイツ国民の命さえなくなって当然だと言い出します。
 一方、女性達には優しく接し、シェパード犬のブロンディを溺愛する一面も見せます。もはや野望は打ち砕かれ、地下にこっそり隠れた気の弱い病気がちの老人に見えるのです。

 ロシア軍が迫ってくると、ヒトラーは愛犬を安楽死させ、長年の愛人エヴァ・ブラウンと簡単な結婚式を地下で挙げ、一室にこもって服毒自殺をします。亡骸は晒し者にされぬよう、裏庭で焼かれました。ゲッペルズ夫妻も同じように死んでいきます。ただし安楽死させられたのは犬ではなく。彼等の6人の子供達でした。

 秘書は映画の中でヒトラーの本当の正体を知らなかったと証言しています。ヒトラーの手紙等をタイプしていたのですから、ある程度は知っていたはずとも思いますが..。彼女はヒトラーとゲッぺルズの遺書もタイプしています。ヒトラーの秘書だった事は彼女にとって消してしまいたい過去だったと思いますが、その責任感から本を書いたのでしょう。
 エヴァ・ブラウンは彼女に胸の内をもらします。長年一緒にいるけど彼の事が分からない、時々犬に焼きもちをやいてしまう、と。
 
 ユダヤ人虐殺などの悪行が描かれていないために、批判する人も多い作品ですが。ベルリン陥落の悲惨な様子はちゃんと描いています。
   
 ドイツ語の映画ですが。パンフレットの中に英語版のちらしを見つけたので紹介します。
タイトルは原題を英訳した“Downfoll"(転落、破滅)。下は映画に使われたヒトラーのセリフです。

 "If the war is lost, then it is no concern to me.
If the people perish in it, I still would not shed a single tear from them.
Because they did nat deserrve any better"

(もし戦争に負けても、わたしには関係がない事だ。/ もし戦争で国民が全滅しても、一粒の涙もこぼす気はない。自業自得なんだから)