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またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

まさに我が身を焦がした女の一生ー『灼熱の魂』

あまり事前に情報を入れずに観に行った。
あまりに過酷な主人公の試練にショックを受けて、言葉を失った。

カナダで男女の双子を育てるシングルマザーが亡くなった。その遺言は不可思議極まるものだった。
そこから姉弟は母親の母国へと旅立つ。そこで母親の恐るべき秘密に出会う。

(灼熱の魂/Incendies/Denis Villeneuve ドゥニ・ヴィルヌーブ監督、脚本/2010/カナダ、フランス)

実は観終わって、原作が戯曲であると知り、救われた思いがした。
現代版ギリシャ神話といってもいい。オイディプスの話が色濃く反映されている。
とはいっても、中東のヨルダンがモデルだそうだが、実際のカオス状態だった内線を舞台に、信じられない殺戮、暴力行為が横行する。
そんな時代に強靭な意志を持つ母親「歌う女」は、筆舌に尽くし難い運命に翻弄される。
この作品が創作だったのが救いと書いた。この作品のような偶然はないかも知れないが、現実の世界にも非道、悲惨な話は枚挙に暇が無い。
例えば、タイムの表紙になった鼻と耳を削ぎ落とされた女性もいた。

人間して、なんと愚かで醜い行為なのだろう。文化や宗教、肌の色、性別の違いなどで傷つけ、殺し合うとは。

映画の冒頭で、バックにradioheadの"You and Who's Army"が流れるなか、うなだれた少年たちが坊主にされている。その中に挑発的にこちらを凝視する少年がいる。その少年こそ、母親が捜し求めた、パレスチナ難民との間に出来た愛の子だった。
でもその瞳に写るのは、愛ではなく憎しみだった。

ギリシャ神話を現代に取り込んだ映画といえば、アンゲロプロス旅芸人の記録』を思い出す。こちらはエレクトラを題材にしているが、過酷な内戦を背景に、優れた叙事詩として大いに感動した。
物語としては、『旅芸人』の方が勝っているかもしれないが、より打ちのめされるのは『灼熱』の方である。

現代の中東の紛争とギリシャ神話を融合させた功績は原作の戯曲にあるが、それを映画に仕立てたドゥルヌーブ監督の手腕は素晴らしい。
戯曲を映画化すると、舞台の匂いがどこかすることが多い。けれどこの作品は、ロケが多いこともあり、全然感じなかった。
忘れてはならないのは、母親の秘密が暴かれて行く過程が、ミステリー仕立てになっていて、観客の興味を離さないことだ。伏線は張られて入る。でも私は気が付かなかった。
オイディプスを下敷きにしていると気が付かない方が楽しめる。