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またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

家族って不思議!ー『クリスマス・ストーリー』


Un Conte de Noel/A Christmas Story/アルノー・デプレシャン監督/2008/フランス

アルノー・デプレシャンの新作(といっても2年前)『クリスマス・ストーリー』を観た。
予告編を観た時から期待していた。クリスマスのご馳走をお腹いっぱいたべた満足感が味わえた。
クリスマスに集まった家族のたった2、3日の話なのに、あまりに多くの出来事や、登場人物それぞれの思いがぎゅうぎゅうに詰まっていて、一度観ただけではよく分からない。分からないところがあっても、それでいい。何度でも観て、ああそうだったのかと確認したくなる。見損なっていたものも見えてくるだろう。「長かったけどあっという間だった」という作品ではない。150分もの間、映画の中でも濃密な時が流れる。
観ているこちらは、デプレシャンの魔法にかかったのか、不思議な幸福感に包まれる。映画らしい映画を観たという充実感だ。

観終わってしばらくしてから、ある映画を思い出した。ベルイマンの『ファニーとアレキサンデル』だ。こちらも家族が集まるクリスマスからお話が始まる。楽しいクリスマスから一転、凍りつく展開になっていくのだが..。家族とクリスマスというモチーフの共通点もあるが、観ていた時の幸福感が同じだったのだ。そしたら、デプレシャン監督も『ファニーとアレキサンデル』に言及していた。世界で最も美しい映画の一本だと。ベルイマンの血脈はデプレシャンに流れていたのだ。


アベルジュノンの夫婦と3人の子どもたちを中心とした10数人の登場人物に、それぞれの事情が語られる。主役は誰ともいえない。割かれた時間の多寡はあるが、扱いは平等だ。しいて言えば主役は家族だ。幼くして亡くなった不在の長男でさえ、家族の中で存在している。長男の葬式の思い出から始まる物語は、家族の不和と和解の鍵を亡くなった彼こそが握っている。
白血病で死んだ長男ジョゼフは、家族の誰とも骨髄の型が一致せず、期待された次男アンリも役立たずとして生まれた。そのせいか、アンリは母ジュノンに疎まれ、ジョゼフの妹エリザベートは弟アンリと反目しあう。気弱な末っ子イヴァンはみんなから愛されている。
そんな中、母ジュノン白血病と判明する。クリスマスに散らばっていた家族が集まってくる。家族から追放されていたアンリも6年ぶりに恋人を伴って帰還する。従兄弟のシモンはイヴァンの妻エリザベートを思い続けている。家族の中で母と骨髄の型が一致したのは役立たずだったアンリと、エリザベートの息子ポールだった。心を病むポールは、アンリを毛嫌いする両親とは違い、なぜかアンリを慕う。
雪化粧したルーベの街で展開するクリスマス・ストーリー。母の病気は?家族の和解はあるのか?

この複雑な作品で家族を演じた俳優たちが素晴らしい。一家の中心母ジュノン役のカトリーヌ・ドヌーブの堂々たる貫禄。彼女がいなかったら、作品はまとまりのないものになっていたかもしれない。ドヌーブの実の娘キアラ・マストラヤンニは、映画では末息子の嫁で出演している。眼差しが父マルチェロにそっくりだ。
一家に嵐を巻き起こすアンリ役のマチュー・アマルリックは、嫌な奴なのになぜか憎めない役どころを絶妙に演じている。マチュー・アマルリックは『潜水服は蝶の夢を見る』で左まぶただけで一冊の本を書いた全身麻痺の男を演じて、鮮烈な印象を刻んだ俳優だ。今回『クリスマス・ストーリー』を観て、彼がデプレシャンの初期の傑作『そして僕は恋をする』のあのハンサムボーイだと気がついた。まったくうっかりしていた。彼はもともと映画を撮る側の人だったらしい。彼の監督作も観てみたい。
デプレシャン作品のもうひとりの常連、エマニュエル・ドゥヴォスもアンリの恋人ファニア役で顔をだす。歓迎されていない息子の恋人として、クリスマスに集う家族に中に入って行く。微妙な役どころだが、ただならぬ存在感だ。アンリが殴られるているにもかかわらず、平然と食事をするファニア。これからもエマニュエル・ドゥヴォスから目を離せない。
エリザベートを演じたアンヌ・コンシニは、一番難しい役だったと思う。実の弟を何故あんなに嫌うのか、正直理解に苦しむ。幼い頃兄を亡くした喪失感を抱き続け、屈折した愛情を弟にいだく。映画はエリザベートの独白で幕を閉める。パリの街を眺めるエリザベートのまなざしはやさしい。