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またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

あのCIAをとことんコケにしちゃいました。―『バーン・アフター・リーディング』

ここ2ヶ月間くらい観た映画の感想をアップしていく予定です。後、阿修羅展もね。


(Burn after reading/2008/Joel Coen & Ethan Coen/アメリカ)

『ノー・カントリー』で世界を震え上がらせたコーエン兄弟の新作は、得意のコメディ『バーン・アフター・リーディング』。アメリカの映画データベースIMDbトリビアによると、ジョエル&イーサンの兄弟は、不条理・サスペンス・コメディ(?)の『ノー・カントリー』のシナリオと、風刺コメディの『バーン・〜』のシナリオを交互に書いていたそうな。
オスカー作品『ノー・カントリー」で少しアカデミックな香り(?)を漂わせたかと思いきや、同時にこんな、全員オバカしか出てこない脱力系ものを作るなんてさすがだ!


気になったのは、Yahooの映画欄での評価の低さだ。現在3☆(5☆が最高)を割って2,82という低さだ。アメリカのIMDbの7.3点(10点満点)と比べて低すぎる。
私自身は、途中まで今回は外れかな?と思っていたのだが、だんだん、あまりのバカさ加減にハマっていって、ラストのCIA高官(J・K・シモンズが良い!)のコメントに唖然とし、エンド・タイトルで流れる歌「CIA Men」で笑いは沸点に達した。
日本人には、この手の突き放したブラック・コメディは理解しがたいのかも。

『ベンジャミン・バトン』でたぶん名演技(観ていないもんで)を披露したブラッド・ピット他の豪華出演人が、すべてオバカを演じている。特にブラッド・ピット(チャド)の単細胞ぶりは必見。「世界一セクシーな男」に選ばれたとは思えない迫真の演技だ。変な髪型や野暮ったいスーツで、軽薄な役を演出している。『ノー・カントリー』のハビエル・バルデムのおかっぱ頭とともに、コーエン兄弟のキャラクター設定の上手さが光る。
私の中では、『トロピック・サンダー』でのトム・クルーズダンスとともに、最近のヒットだ。

ティルダ・スウィントン(ケイティ)以外の主要キャストは、俳優を想定した「あて書き」だったと、これもトリビアにある。
ジョエルの奥さんで常連のフランシス・マクドーマンド(リンダ)はともかく、ジョージ・クルーニー(ハリー)だってまるでセクシーではないし、ハンサムですらない。ブラッド・ピットとともにイメージ・ダウン必至だ。
チェンジリング』で正義を追求する牧師役を好演したジョン・マルコヴィッチ(オズボーン)は、アル中のCIA高官(これまたマヌケ)を滑稽に演じている。マルコヴィッチは『マルコヴィッチの穴』という斬新なコメディ映画に出演し、名前までタイトルに献上している。
脇役で光っていたのが、ブラインド・デートに励むリンダを密かに慕う上司役リチャード・ジェンキンス。見たことある顔だけど、どの作品に出てたっけ?というジェンキンスが、今回は存在感大有りだった。
本当にみんな大バカ、小バカのオンパレードだが、スターのプライドかなぐり捨てての名演技である。ジョージ・クルーニー始めスターたちはオバカ演技を愉しんでやったに違いない。

ところで、タイトルの"Burn After Reading"だが、直訳すると「読んだら燃やせ」で極秘扱いという意味。
スポーツジムの清掃員が偶然拾ったディスクが金になると思い込んだリンダとチャドが、CIAとロシア大使館まで巻込んで、なぜか殺人事件にまで発展してしまう。
皮肉で滑稽なことに、このディスクはCIAをアル中で首になったオズボーンの回顧録の下書きで、極秘でもなんでもなかった。
浅知恵に欲がからんでドタバタ劇が展開するのだが、その語り口の手際の良さはコーエン兄弟ならではである。


これはまったくの私見だが、この作品にヒッチコックの影響を感じた。
映画の冒頭、町の俯瞰から舞台となる場所へズームしていく撮り方は、もう今ではよくあるが、ヒッチコックが使っていたいた手法だ。初期のころは、たぶん建物などの模型を使っていたと思うが、ヒッチコックが最初かどうかは分からない。
ジョージ・クルーニーが演じたハリーという名前は、『ハリーの災難』に繋がる。ハリーという名の死体を埋めたり掘返したりと、物の様に扱うブラック・コメディだ。
死体を笑いものにしてしまう、ヒッチコックのイギリス流のブラックな笑いに、昔当惑を覚えたものだ。
ハリーが偶然撃ち殺したチャドの死体の足がクローゼットから飛び出している絵は、滑稽ではあるが、薄ら寒い気がする。死体をおもちゃにする感覚だ。


オバカな人間たちと、身内の恥さえ暴かれなければ人命などどうでもいい、というCIAを笑っている。その突き放した視点が、この映画の好き嫌いを分ける基準となるのかも知れない。