またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

アイデアの勝利―『おくりびと』

おくりびと/滝田洋二郎監督/2008/日本

モックン主演の『おくりびと』が大ヒットしているらしい。滝田洋二郎監督の初期の作品が好きだったので、期待して見に行った。


映画も半ばを過ぎた頃、あちらこちらですすり泣きが聞こえて来た。そういう私も泣いてしまった。
一年半前に亡くした母の時のことを思い出すのである。多くの人が身近の人の死を経験している。映画には、納棺師という仕事がら、いくつかの死と、それを見送る人々が描かれる。容易に感情移入してしまう。うまいなあ、と思ってしまう。身近の人の死に対する思いは万国共通である。トロント映画際でグランプリを獲ったのも頷ける。
(これ以降ネタばれあり)

この作品の勝因は、納棺師という職業に光をあてたことだ。映画で主役を取るなんて誰も考えなかった。母の時にお世話になっていながら、そういう職種があることを知らなかった。葬儀屋さんがやっているのかと思っていた。

母は全身を清めてもらい、綺麗な青の着物を着せて、化粧をしてもらった。その手際の良さに感心した。
口紅と頬紅をさした瞬間、母が若返ったような気がした。そのとき「頬染めて 乙女にもどらむ 死化粧」という句が、ふと浮かんだ。多忙で化粧とは無縁だった母を綺麗にしてもらって、うれしかった。


しかし納棺師という仕事は、死体を扱う仕事だけに偏見は大きい。故人の家族には感謝されるのに、昔の友人からさげすまれ、広末涼子演じる妻にも「汚らわしい」とまで言われる。人が死ぬことでお金を稼ぐのである。
だが、この作品は死についての物語ではなく、家族の愛情が全編通して描かれるテーマである。
最後、自分と母を捨てたと恨んでいた父を、自ら棺に納めることになる。
まあ予想できた展開だが、その死体役がこの間亡くなった峰岸徹だったのは、不謹慎だが笑ってしまった。偶然とは思うが、峰岸徹の遺作(たぶん)が、死体役とはね。
笹野高史が火葬場で働いていたときもエエッ!て思ったけど。でもあんな制服着るんだっけ。


この映画の企画はもともと主演の本木雅弘だったそうだ。モックンは納棺師の技術をマスターし、チェロまで弾いて、大熱演だ。
しかし脚本の小山薫童がうまい。彼は放送作家だから、アイデアが豊富に出てくるのだろう。あまりにうますぎて、ちょっと鼻についた。泣かされてしまったのが腹立たしい。作り過ぎたために、リアルティが薄まってしまった。


それでも、舞台の山形の風景が素晴らしい。郷里に近いせいか、なつかしかった。
川の土手や、田んぼで落ち穂をついばむ白鳥。NKエージェントの変わった建物など、ロケーションがうまい。大きな映画の画面では、ロケーションはとても大事だ。
後、社長演じる山崎努の演技に感心した。昔伊丹十三がベタ褒めしていたのが、今ようやく分かった。
フグの白子を食べるシーン、凄い!
コメディの滝田監督だけあって、所どころ笑わせてくれて、泣かせてくれる。モックンのオムツ姿も見れる。相撲のまわし姿の『シコ踏んじゃった』を思い出した。