またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

女の子映画の決定版―『ジュノ』

JUNO/Jason Liteman/2007/米

  A comedy about growing up / ...and the bumps along the way.
   (デコボコ道につまずきながら、成長していく青春コメディ)

アメリカは少し変わっている。
マサチューセッツ州の平和な町で、女子高生が同時期に妊娠し、共同で子育てする協定を結んだとかいうニュースがあった。協定は校長が否定しているが、十数人が実際に妊娠し
たのは事実。そこで浮上したのが、最近十代で出産したブリトニー・スピアーズの妹と、高校生の妊娠を扱ったこの映画『ジュノ』の影響。
あまりに退屈な刺激の無い生活に、生きている充足感が欲しかったのでは?ともいわれている。悩みは多いけれど、楽しいはずの時期なんですけどねえ。

それはともかく、この『ジュノ』は小品ながらアカデミー脚本賞を獲得した。この痛快な女の子の青春コメディを書いたディアブロ・コディは。過去に一年間のストリッパー経験があるという、ぶっ飛んだ人。彼女の大人気のブログの大ファンだったプロデューサーが今回の映画の脚本を持ちかけたそうだ。彼女のおかげで、ピチピチした生のいい作品になった。
監督のジェイソン・ライトマンは、『ゴースト・バスターズ』を撮ったアイヴァン・ライトマンの息子。『ジュノ』でも父親と娘の絆が描かれているが、ライトマン監督自身の父への思いも込められているらしい。
監督は、煙草業界をひねりに皮肉った前作『サンキュー・スモーキング』では、あまりの巧さに皆を煙に巻いた。更に今回で、コメディの才能を証明した。コメディ好きとしては、嬉しい限りだ。

オープニング・タイトルから驚かされる


ジュノ(エレン・ペイジ)が大きなジュース・ボトルを抱えて道を歩いて行くと、いつのまにかアニメと実写が融合したような不思議な映像に切り替る。
バックにはバリー・ルイ・ポリサーの「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」というフォーキーな曲が流れる。

オープニング・タイトルは、映画の導入部であり、観客に作品への期待を膨らませる役割がある。
クラシックな映画によくあったのは、豪華な本の表紙にタイトルがあり、本をめくっていくと主要なキャストが書かれたページが出てくる、といったものだ。
最近は実に多彩な凝ったオープニング・タイトルがあって、映画を見る楽しみのひとつになっている。

『ジュノ』のオープニング・タイトルはシャドウプレイ・スタジオというところが手掛けている。
007シリーズのオープニング・タイトルは毎回凝った作りで、ジョン・バリーの音楽とともに有名だが、これを作っていたのはソール・バスという人。『めまい』などのヒッチコックの一連の作品も手掛け、『サイコ』のシャワー・シーンもデザインしたそうだ。

小道具と音楽

「女の子映画」として必須アイテムは、衣装を含めた小道具だろう。女の子はかわいい小道具が大好きだ。
ジュノの親友リアがセクシー系の綺麗な服を着ているのに対して、ジュノは古着を重ね着したかわいいスタイルだ。それぞれの個性を演出している。
ジュノの愛用のハンバーガー型電話機は、ライターのディアブロ・コディの持ち物だそうだ。使いづらそう。ジュノが乗り回している可愛いミニバンは、トヨタのプレヴィア。
冒頭ジュノが持ち歩く大きなジュース・ボトルを初め、ファースト・フードは好きらしい。妊娠が分かったあとで、木にヒモのようなもので首つりしようとするが、これはヒモ状のキャンディらしい。ジュノが齧ることで笑いに変えている。
ボーイフレンドのポーリーがいつも口にしているのは、tic tacというオレンジ味のミント菓子。ジュノは愛の告白に、メイル・ボックス一杯のtic tacを捧げていた。

ジュノの音楽の好みは70年代のパンク・ミュージックで。好きな映画は血のしたたるホラー映画『サスペリア』だ。お腹の赤ちゃんの里親になる予定のマークとは、音楽と映画の話で意気投合し、ヴァネッサとマークの別れの切っ掛けを作ってしまう。
マークがジュノに聴かせるのは、ソニック・ユース版「スーパー・スター」。ソニック・ユース世代の私には笑える選曲だ。
ホラー好きのジュノに『サスペリア』は甘いといって見せるのは『The Wizard of Gore』。凄すぎる。

台詞の魅力

笑える台詞満載の『ジュノ』だが、興味のある人はパンフレットに一部載っているので、そちらを参照。映画データ・ベースのIMDbのmemorable quotesはコチラ→JUNO

私が最も胸にジーンときた台詞は、父親マックの愛情こもった言葉だ。
里親になってくれると思っていたヴァネッサとマークの仲が終わったことを知って傷付くジュノ。

Juno:Dad,Ijust need to know if it's possable for two people to stay forever, or at least for a few years?
Mac:In my opinion, the best thing you can do is find a person who loves you for exactly what you are. Good mood, bad mood, ugly, pretty, handsome, what have you, the right person will still think the sun shines out your ass. That's the kind of person that's worth sticking with.
「パパ、知りたいんだけど、愛するふたりが永遠に一緒にいるって無理なの?もって2、3年ってとこなの?」
「俺の思うには、一番良いのは、そのままのおまえを愛してくれる誰かを見付けることだ。上機嫌であっても、なくても、醜くても、綺麗でも、ハンサムでも、おまえにピッタリの相手ならお前をお陽様の様に思ってくれる。そんな奴が、ずっと一緒にいる価値があるんじゃないか。」

「そんな感じの人がいる。」というジュノに、自分だと勘違いする父親のマック。ジュノはこの後、自分の心に素直になって、マーキーの元へ。

次はジュノだけでなく、私もスカッときた台詞。
親友リアとステップ・マムのブレンと一緒に超音波で赤ちゃんの画像を見ていると、超音波技師が性別を知りたいか?と聞いてきた。里親を驚かせたいから教えないでというジュノに、それは良かったと応える技師。ここに来る十代の女の子たちは赤ちゃんを有害な環境で育てているから、という言葉にブレンが噛み付いた。
Bren: What is your job title exactly?
Ultrasound Technician: I'm an ultrasound technician, ma'am.
Bren: Well, I'm a nail technician and I think we both ought to just stick to what we know.
Ultrasound Technician: Excuse me?
Bren: Oh, you think you're so special because you get to play Picture Pages up there? Well, my five year old daughter could do that and let me tell you, she's not the brightest bulb in the tanning bed. So why don't you go back to night school in Mantino and learn a real trade.
Juno: Bren! You's a dick! I love it!
ブレン「あなたの職業の正式名は何でしたっけ?」
超音波技師「超音波技師です。」
ブレン「私はネイル技師だけど、私たちふたりとも専門外のことに口出しすべきじゃないと思うの。」
超音波技師「何ですって?」
ブレン「まあ、そんな画像を操作できて、自分が特別だと思っているでしょう。その位のことなら私の5才の娘だってできるわ。娘は特別お利口ってわけでもないのよ。マンティノの夜間学校に戻って、本当の仕事を学んできたらどうなの?」
ジュノ「ブレン、最高!」