またたびCINEMA〜みたび〜

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なんだか凄い―『コロッサル・ユース』

Colossal Youth/Juventude em marcha/ペドロ・コスタ監督/2006/ポルトガル

何週間も前、公開2日目に観に行ったのだが、あまりに特異な作風にとまどいが大きかった。
前作『ヴァンダの部屋』は観ていなかったし、一部でペドロ・コスタ監督に注目が集まっているのは知らなかった。
実は観に行った日がちょうど寝不足だったため、前の方は寝てしまった。でも寝てしまう映画なのだ。
私はめったに映画を観て寝たりはしない。過去に寝た作品はアラン・レネ『去年マリエンバードで』、アンゲロプロスこうのとり、たちずさんで』、ゴダール『愛の世紀』だけだったと思う。みんな名作ぞろいで、寝たからといって支障はそれほどない。『去年〜』に至っては、寝る前と起きた時の映像が同じだった。デジャブの映画だしね。

その線でいけば、『コロッサル・ユース』も偉大なる名作ということになる。
モノクロかと見紛う画面に、なぜか固定カメラ。同じ様な背景に突っ立った主人公の独白が流れる。何度も繰り返される妻への手紙が子守唄に聞こえる。
アフリカからの移民ヴェントーラは、リスボンにあるスラムと、移住を強いられている近代的なアパートメントを行ったり来たりする。
白い空虚な移住先のアパートの部屋よりも、古ぼけた廃墟のようなスラムの方がほっとする。冒頭このスラム街の窓から中庭に次々と家具が放り投げられるシーンが、スローモーションのようで、夢の中の一場面のように美しい。
主人公は、アフリカから労働力としてポルトガルにきて、危ない仕事とつらい人生を送ってきたらしい。家族は妻がふたりいて、今の妻は家出したばかりだ。子供も何人かいるが、家族関係がはっきりしない。娘が亡くなるが、誰だかはっきりしない。よくわからないまま進んで行く。主人公ヴェントーラは、家具のない新居でばらばらになった家族が一緒に暮らすのを夢見ているらしい。

動かないカメラに、同じ様なシーン、繰り返される同じ様な台詞に、観ているのが苦痛だった。数十分寝たにもかかわらす、早く終わらないかと思って観ていた。
そう思っていたのだが、観終わって数週間が経っても、妙に記憶に残る映画である。喩えは悪いが、グラスター爆弾のように後からやられる不発弾のような映画だ。
ヴァンダの部屋』は観て無いが、多分ワンシーンだけでペドロ・コスタ監督の作品と分かるはずだ。ちょうど小津作品がそうであるように。これほど個性的な撮り方をする監督はちょっと思い浮かばない。