またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

ニコラエじいさん、さようなら!『ジプシー・キャラバン』


Gypsy Caranan/2006/アメリカ
YOU CANNOT WALK STRAIGHT WHEN THE ROAD BENDS...(ローマのことわざ)
ジプシーの語源は、エジプシャンだと聞いた事がある。今では、ヨーロッパ中心に散らばっているジプシー(ロマ)と呼ばれる人達は、もともとインドがルーツらしい。
定住を嫌い旅を好んだ流浪の民は、遠くアフリカまで足を延ばし、スペインを通ってヨーロッパにやって来た。そこで「エジプトから来た人、エジプシャン」が訛ってジプシーになったそうだ。ジプシーという呼称を避ける人もいるようだが、本人たちはジプシーと名のっている。ロマと呼ぶのは主にドイツで、ナチス時代の苦い思いがあるせいだろう。
このドキュメンタリー音楽映画『ジプシー・キャラバン』は、4か国(ルーマニアマケドニア・スペイン・インド)、5組のミュージシャンが北アメリカを演奏旅行した様子をフィルムに収めたものだ。
私はここ何年か、ルーマニアタラフ・ドゥ・ハイドゥークス(弦楽器中心)とファンファーレ・チョカリーア(ブラス)が来日する度にコンサートに行っている。必ず楽しませてくれるからだ。
ルーマニアのクレジャニ村に住んでいるタラフのメンバーは曲者が多い。トニー・ガトリフ監督の『ラッチョ・ドローム』はクレジャニ村が舞台だし、『胸に響くは君の歌声』では、ジョニー・デップと共演している。
渋谷の小さなライブ・ハウスで初めてタラフを聴きに行った時、開演前の観客の列に変なじいさんが並んでいた。ヴァイオリン弾きの長老ニコラエだ。このじいさんは自分の出番でないと客席に来て、ビールをおごってもらっていた。今思えば、私もおごってやれば良かったと思う。
ニコラエじいさんが亡くなってからも、タラフは元気に活動している。去年来日した時は、なぜかくるりが司会進行していた。(岸田さんの髪が凄かった)ヴァイオリンを驚く程速く弾くカリウは、そっくりな息子と共演して満足そうだった。コンサートの終わった後、ヴァイオリンを客に売ろうとしていたが、結局売れたのだろうか?
ニコラエの葬儀の様子が映画に出てくる。なつかしいクレジャニ村の小さな家。みんな悲しんでいる。カリウ始め楽団のみんなは夜通し演奏する。また泣いてしまった。
ファンファーレ・チョカリーアのコンサートは、いつも楽しい。チューバのズンチャ・ズンチャというリズムに心浮き立つ。初めて見に行った時は驚いた。アンコールも終わり帰ろうとしていたら、ロビーからラッパの音が聞こえてくる。狭いロビーをバンドが練り歩いていて、その後ろを観客が付いて行っていた。まるでチンドン屋に付いて歩く子供達といった風だ。大人になってから、こんな楽しみが味わえるとは思わなかった。
その後、2回目に見に行った時は、ロビーで行進しようとしていたメンバーは、ドイツ人のマネージャーに止められてしまった。
ファンファーレ・〜ではないが、ジプシー・ブラスの魅力は、エミール・クリストリッツァ監督の映画で使われた音楽で初めて知った。エキゾチックな何とも言えない魅力だ。
他にも、インドのマハラジャ(女装のダンサーがキュート)、マケドニアのエスマ(堂々たる歌唱力と色気)、スペインのアントニオ・エル・ヒバ・フラメンコ・アンサンブルは、アントニオの優雅なダンスと伯母ファナのドスの効いた魂の歌声が素晴らしい。