またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

BLOODY血みどろスウィニー・トッド

SWEENY TODD The Demon Barber of Fleet Street/2007/アメリカ
ティム・バートンとジョニーデップの最強コンビがお送りする、新作『スィニートッド フリート街悪魔の理髪師』。スティーブン・ソンドハイムの名作ミュージカルの映画版に挑戦した。果たして出来はというと・・・。

血染めのオープニング・クレジットを見ていただいた。とてもスタイリッシュで気に入った。オープニングを見ただけでも、アカデミーの美術賞を獲ったのは頷ける。ティム・バートンは、前作『チャーリーとチョコレート工場』ではチョコレートの川を作り、今回は真っ赤な血の川を流した。
全編を通して、ダークな雰囲気たっぷりで、流れる血の量は半端でなく、おぞましく、B級映画の香りがする。特にターピン判事(アラン・リックマン)の子分、役人パムフォードを演じるティモシー・スポールが憎々しくてよい。
妻に横恋慕した判事の陰謀で、オーストラリアに島流しにあったベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)は、殺人鬼スウィニー・トッドとしてロンドンに舞い戻ってくる。復讐心に取り憑かれたスウィニー・トッドと、大家で客の来ないパイ屋を営むラベット夫人(ヘレナ・ボエム・カーター)の思惑が一致した。2階で理髪椅子に座った客は、喉をかっ切られ、パイ屋の地下の釜へまっさかさまへ落ちて行く。それまでの閑古鳥は嘘の様に、人肉パイに人々は列をなす。
ブラック・ユーモアもここまでくると、笑うしかない。
この話はロンドンという町を抜きには語れない。フリート街は実際ロンドンにあるが、スウィニー・トッドという人は伝説化していて、脚色の色は濃い。時は18世紀中頃、あの切裂きジャックが暗躍する100年前だ。当時は罪人の公開処刑が庶民の娯楽だったという。
イギリスに行ったことがある人は知っているが、よく宵の口から小規模なウォーキング・ツアーをやっている。ロンドンだったら切り裂きジャックエジンバラだったらジキルとハイド氏とかの足跡をめぐるガイド付きツアーである。幽霊の出没現場とかも得意だ。
以前、スコットランド女王メアリー・スチュアートが住んだホリルード宮殿を、バス・ツアーの一行に混ざって見学したことがあった。その宮殿はメアリーの夫が愛人を殺した現場として有名で、タペストリーなんかの説明をしていたガイドさんが、ある小部屋に行くと殺害事件について語り出した。その部屋には秘密の小さな螺旋階段があって、夫の刺客はここを登ってメアリーの愛人を殺し、次の間に遺体を放置したという。そこには「死体はここに置かれた」というプレートが貼ってあった。少々退屈していたツアー客たちも、ここにきて手を叩いて喜びだした。イギリス人は血なまぐさい話が大好きなようだ。
モンティ・パイソンなんかを見ていても、やたらにBLOODYという言葉を発する。イギリスの歴史も大量の血に彩られている。ロンドン塔に行けば、幽閉された人達の怨念で息がつまりそうだ。
そういえば、ジョニー・デップは以前、切り裂きジャックを題材にした、『フロム・ヘル』とい映画に主演していた。小品ながら、当時の退廃的な雰囲気も出ていて面白かった。
ちょっと寄り道が長すぎた。今回ティムは、もう完成した他人の作品を映画化した訳だが、美術等の技巧の完成度は高いが、オリジナルでないためか、物足りない感じがした。
また、はじける作品を作って欲しいものだ。