またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

男の出る幕はない!―『ボルベール<帰郷>』

Volver/2006/スペイン

いつも意表を突いた映画を見せてくれるペドロ・アルモドバル監督の『ボルベール』をやっと見た。カンヌ映画祭で中心人物6人(?!)が女優賞を獲得したのが象徴的な、女性のパワーに圧倒される作品だ。脚本賞も獲ったんだけどね。
冒頭のタイトルバックがまた、黒地に鮮やかな花模様ときている。主演のペネロペ・クルスは同じ様なテキスタイルの服を着て出ているが、彼女の美しさとイメージが重なる。この映画のペネロペは特に美しい。監督は、ソフィア・ローレンアンナ・マニャーニのイメージを求めたらしいが、ペネロペは見事に応えた。大きな胸を強調した服とツケ尻が功を奏した。アルモドバル作品で地元スペインということもあって、水を得た魚のようだ。
YOU TUBU は、映画の中でペネロペ・クルスが熱唱する歌「ボルベール<帰郷>」を本当に歌っていたエストーレジャ・モロンテの映像。鳥肌もの。
殺人事件と隠ぺい工作が前半あるのだが、何故か陰惨さや湿っぽさは感じられない。乾いたユーモアさえ漂う。コーエン兄弟のドライな感じとも少し違う。ラ・マンチャに吹くという風のせいかも知れない。
お墓掃除から始まる物語は、ふたつの殺人事件(ひとつは会話の中で語られる)、伯母の葬式、母のよみがえり(幽霊?)、死に向かう人と、生と死が満載だ。ラ・マンチャという地方は、監督の故郷でもあり、生と死が共生する特異な土地だそうだ。父親と一緒に火事で亡くなったはずの母親を見かけても、近所の人はすんなり受け入れてしまう。
幽霊と思われた母は、実際は生きていてボケた姉の世話をしていた。この母には大変な秘密があり、再会することで母と娘のわだかまりも解けることになるのだが。
私の母も、幽霊でいいから帰って来て欲しい。そう思うと、胸がいっぱいになった。