またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

氷の海で立往生する白くま―『北極のナヌー』


Arctic Tale/2007/アメリカ
いつもなら分厚い氷が張っているはずの北極の海。氷が砕けたガラスのように浮かび、碧い海が白い氷の下から顔を覗かせている。その小さな氷の上で。大きな北極熊が右往左往している。手近の氷に飛び移ろうとして失敗。無様である。文字どおり「薄氷を踏む思い」だ。
同じような映像を見た憶えがある。人間のエゴの産物である温暖化の影響で、地球上の動物たちに危機が迫っている。北極熊はその象徴的存在となった。当「またたびCINEMA」でも以前に取り上げている→ 北極熊が北極からいなくなる?
そんな事情をよそに、最近は白クマが人気である。四国の砥部動物園のピースや、ベルリン動物園のクヌートが人々を夢中にさせた。
『北極のナヌー』でも子熊はただただ可愛い。春一番に巣穴から顔を出した瞬間のナヌーのキョトンとした顔。じゃれあって雪の上を転がる兄弟。母親の後を一生懸命附いていく姿。無条件降伏だ。
この映画のもうひとり(もう一種類)の主役のセイウチを忘れてはいけない。10年かけてこの作品を完成させた夫婦の監督は、セイウチの子供に寄せる愛情に魅せられたそうだ。セイウチの女の子シーラは、母親と子守役のメスの手厚い保護の元に、すくすくと育っていく。危険がせまれば、ふたりが命がけで守ってくれる。実際にオスの白クマに襲われそうになったシーラを庇って、子守のセイウチは犠牲になってしまう。
皮肉にも北極熊がセイウチを襲うようになったのは、海に氷が張らなくなったせいだ。氷上のアザラシが獲れなくなった白クマは、海を泳いで岩が剥き出しになった島にたどり着く。そこには、氷山が手狭になって島に逃れて来たセイウチの群れがいた。大きなキバを持つセイウチは、白クマにとっても危険な獲物だ。NHKの番組では、セイウチを襲った白クマが逆にキバでやられてしまった。悲しい結末だった。
美しい写真で有名なナショナル・ジオグラフィックが制作サイドに付き、アダム・ラヴェチとサラ・ロバートソンが雄大な自然と生き生きとした動物たちをフィルムに焼付けた。