またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

酒浸りの映画に酔えなかった 『傷だらけの男達』

インファナル・アフェア』の制作チームが作り、トニーレオン金城武が主演しているというので期待して映画館へ。レディース・デーということで、観客はトニー様か金城君目当ての女性で熱気むんむん。
私もむろんそのうちのひとりだが、映画が始まって何故か国籍不明の街香港はクリスマス・イヴで盛上がっている中、カメラは俯瞰ショットで始まり、美男ふたりがさっそうと登場。
やがてふたりは、容疑者を追って見憶えのある夜の香港の街を疾走する。
調子のよい滑り出しに胸は高鳴ったが、話が進んでくるにつれて、だんだんテンションが下がっていくのを感じた。なんか釈然としないままラストに突入。最後の蛇足のスー・チーのセリフに笑ってしまった。私と一緒に観た人達は満足したのだろうか?確かおすぎも褒めてたよなあ。

このインタヴュー金城武がさわやかなので紹介。彼はアル中の役なので四六時中浴びるほど酒を飲んでるが、他の人もやたらに酒を飲む。自殺した恋人が忘れられず酒に溺れるという、何のひねりもない役だが、好演しているといっていい。その恋人が自殺とは思えない程血まみれになって死んでいるので、デビッド・リンチ映画かと思った。
金城武の恋人になるスー・チーはビール会社の売り子役で、変なコスプレさせられていた。彼女はホウ・シャオシェン監督の『百年恋歌』では素晴らしかったが、今回はコケティッシュな演技を求められたのだろうが、少しばかに見えた。
金城君はウォン・カーウァイ監督の『天使の涙』でも香港の街を走り回っていたが、20年?の月日をものともせず今回もビルの谷間を駆け抜けている。
香港の街が犯罪映画の舞台に最適なのを発見。私が香港に行ったのは返還前だったが、何でもありの雑多でエネルギッシュな街だった。映像チームも優秀で、マカオロケも(特に回想シーン)良かった。
問題はトニー・レオンだ。子供の頃に一家惨殺という傷を抱え、復讐の鬼と化したダーク・ヒーローを演じている。もちろんベテランだからそつなく悪役をこなしているが、なんか違和感がある。ウォン・カーウァイ映画であれだけ色気を振りまいていたトニー・レオンに、ぜんぜん魅力を感じないのだ。
悪役を演じると、断然輝き出す俳優を何人か知っている。ドナルド・サザーランドやゲーリー・オールドマンなんかがすぐに浮かんでくる。彼らは、内に狂気を秘めている。
トニーの悪役に無理があるのか、脚本に説得力がないのか、たぶん両方だろう。
彼の復讐の犠牲になる妻役のシュー・ジンレイという女優さんは、初めて拝見したが知的でとても良い感じだった。彼女だけが無理がない。それから時々登場して和ませてくれるチャプマン・トウは良い役者だと思った。
余りに古臭い復讐譚に、過激な暴力描写。強引なストーリー展開。最初のうちから犯行を暴露する手法で、謎解きでないのは明らかだが、トニー・レオンの極悪非道の行動に付いていけない。刑事になった意味がない。最後に少年時代の悲劇を見せてもらっても、殺しておいて妻への愛に気が付いても、もう遅いのである。傷の舐め合いが男の美学って言いたいのだろうか?すっかり酔いが醒めてしまった。