またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

たった一丁の銃で世界に悲劇が降り注ぐ『バベル』

TVで誰かがこの映画を「風が吹いたら桶屋が儲かる」といった話だと言っていた。当たらずと言えども遠からず、である。
モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本と場所も違えば、登場人物も、言葉もそれぞれバラバラ。発端はある日本の男がモロッコ人のガイドにライフル銃を譲ったことから始まる。そのたった一丁の銃が、遠く隔たった国の人々に悲劇をもたらす。
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(長い)とギゼルモ・アリアガの監督、脚本コンビは『アモーレス・ペロス』『21グラム』に続く三作目とのこと。『21グラム』は機会を逃して未見だが、『アモーレス・ペロス』は面白かった。やはり今回と同じくオムニバスで、犬がそれぞれの話の共通のモチーフになっていた。一作目とあってまとまりはなく荒削りではあるが、エネルギーが魅力となって私はこちらの方が好きだ。
典型的なオムニバス映画ではなく、場面や人々は遠く隔たっていてもストーリーは繋がっている。まとまりも良く、混乱しないように上手く出来ている。一作目から比べると、洗練され、腕をあげたといえるかもしれない。

最近、平和だった日本にも銃撃事件が市民生活を脅かすようになってきた。この間のアメリカの銃乱射事件等、銃が人間に不幸をもたらす例は枚挙に暇が無い。旧約聖書の創世記で、人間は天にも届く塔を建てようとして神の怒りをかい、ひとつだった言葉が通じなくなり、人々は不和になり、世界各地に散らばっていった。その地を神は「バベル」と名付けた。過去の銃撃事件も意思疎通を拒絶した、人間不信からきているような気がする。
映画の中では、それぞれ4か国の言語が出てくるが、東京の女子高校生が聾唖だというのは象徴的な意味がある。演じる菊池凛子は評判どおり素晴らしかった。言葉によるコミュニケーションが出来ない分、愛を求めて大胆で痛々しい行動にでる。受ける刑事役の二階堂智の優しさが滲みでてくる演技に関心した。

『バベル』の映画の中には、とりたてて悪人という人は出てこない。ふとした愚かな行為が火だるま式に悲劇へと変わっていく。
モロッコの少年達のちょっとした遊び心が、国際的な事件を引き起こす。ゲーム感覚で撃っただけなのにテロ行為と間違われる。
銃撃されたアメリカ人夫婦の留守宅では、幼い子供達がメキシコ人の乳母とともに国境の砂漠を彷徨う。厳しい検問を恐れた運転手の甥が3人を国境に置き去りにした為だ。
ささいな間違いが偶然重なって、大きな悲劇が人間に訪れる。なんとも皮肉であるが、我々観客は、散らばった国で、それぞれ苦悩する人々を俯瞰で見つめることになる。崩壊するバベルの塔を見下ろす感覚で。