またたびCINEMA〜みたび〜

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アメリカでは『父親たちの星条旗』よりも『硫黄島からの手紙』なの?

今日アカデミー賞のノミネート作品の発表があり、ゴールデン・グローブ外国語作品賞に続いて、『硫黄島からの手紙』が作品賞にノミネートされた。確かに『硫黄島〜』は丁寧に作ってあって好感の持てる作品だが、映画としては『父親たちの〜』の方が、着眼点や内容の質の深さからいって優れていたと思うのだが。
アメリカの映画のデータを網羅しているサイトIMDbによると、『父親たちの〜』が7.3p、『硫黄島〜』が8.5pと硫黄島が有利で、ユーザーコメントも硫黄島はベタ褒め。アメリカ人は『硫黄島〜』がお好きのようだ。といっても、12月にやっと封切られた硫黄島は上映館も少なくて、おまけに日本語で字幕だからね。見た人は奇特な人かも。

アメリカ人のコメントで、『父親たちの〜』を新鮮味のない、ありきたりの戦争映画と批評していたが、私の評価は逆。『父親たちの〜』が戦争をめぐる、個人と国家の関係を鋭く抉っていたのに対して、『硫黄島〜』は理不尽な戦争を描いているものの、戦争映画の佳作の域を出ていないと思う。ただ、忘れてはならないのは、この映画がアメリカ映画であって、いくらクリント・イーストウッドであっても、当時の日本を批判するという事はできないであろう。本当は日本人が作るべき作品だと思う。

この2作を観る前に、たまたまNHKの硫黄島の闘いのドキュメンタリーが再放送された。極少数の生き残った兵隊さんの証言を元に作られていた。この証言からすると、映画の描写は生ぬるく感じたが、撤退も自決も許されず、飢えと猛烈な暑さに苦しみ、米兵が火炎放射器で壕を焼き尽くす恐怖に震える地獄絵だった。
硫黄島は、日本にとって死守せねばならない島であり、アメリカにとっても本土空襲の拠点として奪還すべき島であった。しかし、圧倒的に戦力で勝っていたアメリカに対して、日本は硫黄島に対する増兵も食料支援も出来なかった。残念ながら、フィリッピンビルマ戦線でも、同じ様に軍部の無策から、日本からの支援を絶たれ、多くの兵隊が犠牲になった。
硫黄島指揮官の栗林中将は、軍人としてはアメリカ留学経験がある異色の人だった。優れた戦略家であり、すぐに陥落するとみられた島を一か月近くも持たせてしまった。映画では、かなり部下から反発されていたが、自決を禁じて最期まで闘い抜く事を命じた。指揮官としては正しい選択だと思うが、地獄の日々の兵隊たちにとっては酷だった。鉢伏山の壕を捨てて撤退せよという命令を無視して、部隊数名が手りゅう弾で次々に自決する前に交わされる合い言葉は、「靖国で合おう」であった。この場面で私が感じたのは、戦死しても靖国神社に英霊として祀られる事が、兵隊にとって一種の救いになっていたのではないか?ああ、そういうからくりだったのね。
どうしても死ぬ事が出来ず、ここから抜け出したふたりの若い兵隊だちがいい。日本の出演人は渡辺謙はじめ、すべて良いが、特に身重の妻を残してきた二宮君の演技が光っていた。当時、こんなダメな兵隊がいたかどうか知らないが、とても自然だった。憲兵落ちこぼれの加瀬亮は、あえて実年齢より10才若い役に挑戦したそうだ。周防監督の新作にも主演してるし、これからの注目株だ。