またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

またまた『プロデューサーズ』がやって来た。


観終わって、思わずスタンディング・オベイションをしたくなった位楽しい映画でした。実際、来日公演の舞台版の時にはスタンディング・オベイションしたんですけどね..。(劇中でこの言葉の下ネタギャグがありましたね。)
ネイサン・レインとマシュー・プロデリックのオリジナル・キャストで観たかったという願いも、今回の映画版で叶いました。
プロデューサーズ


















(The Producers/2205/米)
去年のブロードウェイ版来日公演の私の記事はこちら
ついでに、メル・ブルックスの傑作コメディ『ヤング・フランケンシュタイン』の記事はこちら<

コテコテのベタなギャグ満載の作風で知られるメル・ブルックスですが、今回もぎっしりぱんぱんに笑いを詰め込んでます。ギャグのないセリフはない、といってもいい位。

この『プロデューサーズ』という映画は、元々はメル・ブルックスの1968年のデヴュー作で、マックス役をアクの強いゼロ・モステル、レオ役をまだ若いジーン・ワイルダーがやっています。このほぼ半世紀前の映画を舞台ミュージカル化したのが、2001年。脚本と作詞・作曲はメル・ブルックス、振付け・演出はスーザン・ストローマン。2005年の再映画化版でも彼女が演出しています。
三つの作品を比べてみると、内容、セリフもそんなに変わっていません。(最初の映画は数年前に一度観たきりなのであやふやですが、セットはそっくりです。)
ストローマンは今回の映画化にあたり、完成度の高い舞台版をそっくりそのまま写したという感じです。せっかく映画にしたのだから、もう少し工夫したほうが良かったのかも知れません。
それでもミュージカル・ナンバーのシーンのセット等は豪華になっていて、劇中劇の「春の日のヒトラー」で、頭にプリッツェルやソーセージ!を乗せた踊り子さん達の群舞を俯瞰で写すとハーゲン・クロイツの形に見えるという演出は見事。(68年版で同じ事をやったかどうかは記憶にない。)
これはミュージカル映画の初期にバスビー・バークレーという振付家があみだした手法で、ダンサーの群舞でマスゲームの様に幾何学的なフォームを作り、それを俯瞰で写すと万華鏡の様な美しい形に成っているというからくりです。ザッツ・エンタテインメント
や、エディ・カンターの映画でその素晴らしいアートを見る事ができます。最近では、コーエン兄弟ビッグ・リボウスキ
で、遊んでいます。

それから、マックスがカモにしているおばあちゃん達の歩行器ダンスシーン。彼女達は名前も傑作で、ホールドミー・タッチミー、リックミー・バイトミー、キスミー・フィールミーといった具合。映画版ではストリートに繰り出し、人数も増え、歩行器をステッキの様にして踊る姿は壮観です。

史上最低の脚本を探して、芝居を大コケさせて、おばあちゃん達からせしめた制作費をネコババする、という計画のもとに選ばれたのは、ヒトラーを倒錯的に愛するフランツ(ウィル・フェレル)が書いた「春の日のヒトラー」。(彼が屋上で飼っている鳩達がナチス式敬礼、ハイル、ヒットラーをするのが可笑しい。)このフランツにしろ、スウェーデン人のウーラ(ユマ・サーマン)にしろ、ステレオタイプ化されたキャラクターはコメディの常套手段です。

この最低の脚本を舞台化する最低の演出家チームも奇人揃いで、特に演出家のロジャー・デ・プリー(ゲイリー・ピーチ)と秘書のカルメン・ギア(ロジャー・バート)のゲイコンビは傑作。「春の日〜」の舞台初日、ヒットラー役のロジャーが腰をくねらして登場するや、今まで憤慨していた観客達が大笑い仕始めます。かくして、舞台は大ヒットします。
大コケ必死と目論んでいた、マックスとレオは監獄へ行く羽目に...。

ところで、舞台版がブロードウェイで公開され、大ヒットし、トニー賞を総嘗めにした2001年は、同時多発テロが起こった年でした。しかしN・Yは負けませんでした。休演したのはわずか2日だけ、9/13日には再開し、その後ブロードウェイに観客を呼び戻すキャンペーンの先頭に『プロデューサーズ』チームが立ちました。
再開の日、『プロデューサーズ』のプロデューサーのひとり、ロッコ・ランズマンが観客の前で行った挨拶に感動したので、ここに引用します。
 
「これからみなさんがご覧になるショウは、コメディです。そして、これがコメディで良かったと、私は心から思っています。なぜなら、笑いは人に救いをもたらすからです。このショウを、世界貿易センターの無意味な悲劇で亡くなったニューヨークの仲間達に捧げます。」(パンフより)