またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

美しきアメリカ 『アメリカ、家族のいる風景』より


パリ・テキサス』から20年、ヴィム・ベンダースとサム・シェパードのコンビが帰って来ました。Don't Come Knocking




(Don't Come Knocking/2005/米)

実は去年メキシコへ行った帰りに、トランジットでヒューストンのホテルに泊まったのですが、アメリカにはあまりいい印象を持てませんでした。美しさのかけらも見出せませんでした。

そこで今回の映画ですが、このオリジナルポスターは実際の映画の場面を絵画風に加工したものです。どこかエドワード・ホッパーの絵画を想わせる美しさじゃ無いでしょうか?このモンタナ州ビュートという古い町並みが残る美しい町で、父は昔の恋人と再会し子供たちと出会うのです。

物語はユタ州モアフの荒涼とした砂漠から、母の住むネバダ州エルコを経由して、モンタナへと向かいます。自分にすっかり嫌気がさした西部劇の俳優は、家族を求めて亡き父の車に乗り広大なアメリカを彷徨います。これまでのヴェンダース映画の様に俯瞰で切取られたシーンが続き、心地よい音楽の相乗効果でいい気分になります。この映像が醸し出す、乾いた空気感が私は好きです。

ヴェンダースも言っているように、実はアメリカは美しいということを教えてくれた映画です。
といっても、観光映画ではありません。

人生の盛りを過ぎて落ちぶれたカウボーイ俳優という設定は、流行らなくなったアメリカの西部劇とも重なります。舞台は同じ広大な砂漠。嬉しい事に荒野を疾走する汽車も出て来ます。

配役もなかなか良く、主人公に脚本も書いたサム・シェパード。母親にまだ美しい!エヴァ・マリー・セイント。かつての恋人にジェシカ・ラングと、その息子ガブリエル・マン(歌もうまい)。
もうひとりの娘に美しいサラ・ポリー。逃げる主人公を追う探偵役はティム・ロス(笑える)。

サム・シェパードはハンサムというよりもセクシーな魅力があり、私は『ライトスタッフ』のパイロット役で完全にまいりました。彼の長年のパートナー、ジェシカ・ラングもセクシーな女優ですが、『ブルースカイ』の軍人の妻役は素晴らしかったと思います。エヴァ・マリー・セイントは『北北西に進路を取れ』でその美貌を見る事が出来ます。ガブリエル・マンは『ライフ・オブ・デヴィッド・ゲール』で頼り無い青年を好演し、最近のお気に入りなのですが、印象が薄いのが気になります。ティム・ロスにはこれからも癖のある役を期待しています。この中で、最上昇株はサラ・ポリーちゃんかも。

今回音楽は、ライ・クーダーではなくT・ボーン・バーネットが担当しています。同じくアメリカのルーツ・ミュージックを知り尽くしている彼は、コーエン兄弟の『オー・ブラザー』のサントラで
大ヒットを記録しています。参加アーティストもジム・ケルトナー(ドラム)、マーク・リボー(ギター)と、エルヴィス・コステロのファンの私はうれしくなってしまいます。

パリ・テキサス』が壊れた家族の再生がテーマだったのに対し、『アメリカ、家族のいる風景』は最初から存在しない家族の再生といえます。前作が何か重苦しかったのに比べ、今回はのほほんとした明るさが漂います。ラスト、逢った事も無い祖父の車で父の後を追う娘と息子たちに希望を託しましょう。

蛇足:パンフを読んでいたら、モンタナ州ビュートはダシール・ハメットの「赤い収穫』の舞台となった町だそうです。サム・シェパードはTVのドラマでハメット役をしたそうですが、見たかったな!