またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

恋人たちの視線 ―『四月の雪』

 今回の映画はペ・ヨンジュンソン・イェジン主演『四月の雪』。映画館はヨン様目当てと思しきおばさま達がいましたが、私のねらいは、ホ・ジノ監督です。

 ホ・ジノ監督は、前々作『八月のクリスマス』で私の韓国映画に対する苦手意識を払拭してくれた監督です。彼のこれまでの作品3作品どれもが恋愛映画です。
 韓国のドラマを観ていると恋愛至上主義とでも呼びたくなる様な価値観を感じますが、彼の映画は自然で、過剰なロマンは感じません。むしろよけいな説明はしないので、観客側にそれなりの感受性を必要とする映画と言えます。何も考えずに映画を観たい人には向きません。

 『四月の雪』は不倫をめぐる物語です。不倫映画(?)で私が好きなのは、デビッド・リーン監督の『逢い引き』ですが、ウィリアム・ディターレ監督『旅愁』(主題歌「セプテンバーソング」が良い)もプロットが凝っていてお勧めです。
 パクリ説もでた『四月の雪』。どこかで聞いた事のあるようなストーリーなので私も危惧しましたが、実際観てみるとそんなに気にはなりませんでした。
 
 不倫なのに何故か純愛にも感じてしまう。儒教の影響が今も濃い韓国の不倫は、日本より深刻なはずです。興味の持った方は続きをクリックしてください。


 

ふたりを結び付けるきっかけとなったのは、互いの配偶者の不倫でした。自動車事故の知らせで駆け付けた地方の病院で初めて出会うのです。始めは裏切られたショックから立ち直れない状態ですが、次第に同じ心の傷を負っている事で、お互いの空いてしまった心の穴を埋めるかのように接近していきます。
 
 この作品を観終わって、監督が場面、場面を本当に丁寧に撮っていると感じました。無駄なシーンはほとんど無く、そのシーンが登場人物の心情を見事に表現し、ストーリーも無理なく展開していきます。言葉で語られるよりも、ふたりの間の空気や、なによりも視線が多くを語ります。
 意識が戻った妻を介護するインス(ぺ・ヨンジュン)を窓越しに見つめるソヨン(ソン・イェジン)。眠ったままの夫の胸にもたれて寝てしまったソヨンをこちらも窓から見てしまうインス。説明は無いが云いたい事ははっきり伝わってきます。
 一番切なかったのは、夫が亡くなってホテルを引き払うソヨンが、最終バスに乗れずに戻って来るもののインスに逢わずにホテルの窓から彼を見ていると云うシーンです。

 四月の雪のように、音も無く静かで儚い映画でした。