またたびCINEMA〜みたび〜

大好きな猫や映画の小ネタなんぞをとりとめもなくつづってゆきます

☆ブエナ☆ビスタ☆ソシアルクラブのおじいちゃんたち  


(99/独・米・仏・キューバ

 話題はブッシュ政権と仲の悪い、キューバに跳びます。
 最近ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ(以降、BVSCとします)のメインボーカル、イブライム・フェレールが亡くなりました。主要メンバーでは私の知っている限り、コンパイ・セグンド、ルーベン・ゴンザレスに次いで三人目です。
 
 この音楽ドキュメント映画が作られる前に、この映画に登場する「発掘された」伝説のミュージシャン達のCDは世界的に大ベストセラーになっていました。
 当時私は、偶然ラジオから流れてきた、『チャン チャン』のメロディにすぐに魅了されました。
何か懐かしいような、切ないような感じでした。それから数日後別の番組で新譜紹介でこの曲聴き、
すぐにCDを買いました。それからしばらくはこのCDを繰り返し聞き、まわりにも吹聴してまわりました。
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・プレゼンツ
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・プレゼンツ・オマーラ

 しばらくしてこの映画が公開され、またまたブエナ・ビスタ・ソシアルクラブは注目を浴びました。キューバ音楽など世間はしばらく忘れていたのに、にわかファンがあちこちに現れたのです。私もその一人です。ずっとラテン音楽を愛好してきた人達の中にはこのブームに批判的な人もいましたが、キューバキューバ音楽の素晴らしさが再認識されたのだから良かったと思います。

 映画の方はBVSCの生みの親ライ・クーダーイブライム・フェレールの初ソロCDの製作でキューバ
を再訪し、ファン・デ・マルコスが集めてくれた老ミュージシャンと再会し、アムステルダム、念願のNYカーネギーホールの奇跡のコンサートの様子が納められています。これをライ・クーダーの長年の友人、ヴィム・ヴェンダースが監督しました。

とにかく心地いい映画です。古い南ヨーロッパを思わせるハバナの街並。防波堤に打ち寄せる白い波。街のあちこちには年代物の色とりどりの派手な車。子供から老人まで表にでて談笑し、忙しそうにしている人は皆無。何故か犬もあちらこちらに。ハバナの時間はゆっくり流れます。思わずキューバへ飛んでいきたくなります。観光映画といってもいいくらいです。

 風景にも魅了されますが、何と言っても音楽が素晴らしい。最初に流れるのはやはり『チャン チャン』。イントロの弦と打楽器のアンサンブルが流れてくるともういけません。ギターのエリアデス・オチョアのかん高い声と、コンパイ・セグンドの渋い声のコーラスが絶妙に始まります。途中から絡んでくるのは、マヌエル“エル・グアーヒロ”ミラバールのハイトーンのトランペット。キンキンした音色がたまりません。

 この曲の作曲者はコンパイじいちゃんで、いつもパナマ帽に葉巻きをくわえた伊達男。1907年生まれだから映画のときは92歳でした。6人目の子供を作ってると言うじいちゃんのセリフ、「人生で素敵なものは女と花とロマンスだ。一夜のロマンスは尊い価値がある。」
 その後、遥か日本まで来てくれたコンパイ。元気な姿が見れてよかった、と今つくづく思います。コンサート会場で何故か長嶋茂雄氏の姿が。私のすぐ横を通り過ぎていった元監督にはオーラを感じました。
 
 私のお気に入りのおじいちゃんは。ピアノのルーベン・ゴンザレス。ライに言わせると、“フェリックス・ザ・キャット”と“セロニアス・モンク”を合わせたようなキュートさがあります。    
 キューバで三本の指に入るほどのピアニストだったそうですが、私はモダンで洗練された彼のピアノが大好きです。1919年生まれで映画の時は80歳。キューバ音楽の巨星アルセニオ・ロドリゲスのバンドでの思い出話も楽しく、宮殿のような体育館に置かれたピアノを弾いていて、いつの間にか新体操の小さな女の子達に囲まれるシーンは、ついほおが緩みます。BVSCの初来日のコンサートの時には、花束を手渡ししたいと本気で思いました。二階席だったので無理でした。

 “キューバナット・キング・コール”といわれるイブライム・フェレールは、音楽をすっかりあきらめていたそうです。ファン・デ・マルコスが呼びに来たときにも靴磨きをしていました。メンバーのなかでも一番不遇だった彼が脚光を浴びる姿を見ていると、人生捨てたもんじゃないと思います。 
 私は彼の生の歌声を聴きましたが艶のあるいい声で、ボレロのような哀愁のある歌はもちろん『カンテーラ』のようなアップテンポの曲も得意です。

 紅一点の歌姫オマール・ポルトゥオンドは文字どおりバンドに咲く大輪の花。ドミノゲームに興じるピオ“ゲリラ兵”レイバとマヌエル・リセアのヴォーカルコンビ。キューバ三橋美智也(私が勝手に名付けました)エリアデス・オチョア。パワーのトランペット吹きマヌエル“グアヒーロ”ミラバール。みんな存在感があります。

 リュート系楽器ラウーを後ろ手に弾くハルバリー・トーレス。先祖代々ベース弾きのオルランド“カチャイート”ロペス。印象的なサウンドのティンバレスをたたくのはアマディート・バルデス
この三人の巧みさは尋常ではありません。

 バンドマスターでBVSC影の立役者ファン・デ・マルコスには、次世代にこのおじいちゃん達の音楽を伝え、発展させていって欲しいと思います。